オンリー・ワン



 目も当てられぬほどポンコツで乗り心地も最低のそれが、だみ声をハモらせながら遠ざかる。俺たちを乗せてきた2台のトラックが丘の向こうに消えた。まったくおやじのけちり癖にも困ったもんだ。あれほど口をすっぱくして言ったのに、穴の空いた荷台に干し草が残るあんなボロ車を頼みやがって。
 だいたい結婚記念日だかなんだかしらないけれど、おふくろとふたりだけで旅行に出かけるとは、どういう了見なんだ。しかも豪華客船に乗って世界一周だと。そんな金があるんだったら、犬たちはともかく、せめて俺にはリムジンを用意するとか、そういうちょっとした気遣いができないものか。っていうより、むしろ俺も連れて行け。
 それに「お前には苦労かけるけど」とか言いつつ、ここに送り込んだおふくろも薄情過ぎる。本当にアンナって人は、犬たちを預かってくれるのか。なんたって101匹だぞ、101匹。蟻が101匹とはわけが違うぞ。「名前で呼んでもらえるように、1匹1匹に名札をつけたから」って、そういう問題じゃないだろ。見ろよこいつら、もうボロボロだよ。助手席に座っていた俺でさえこんなに疲れているんだから当たり前だけど、このどんよりとした姿をアンナさんに見られたらどうする。いくら犬好きだといっても、間違いなくうんざりするぜ。
「じゃあ、点呼をとるからよ、元気良く返事しろ! まずは1号」
「ワン」
 なんだよ、名前で呼ばなくたって、番号で通じるじゃねえか。
「つづいて2号」
「ワン」
 見づれえから、尻尾振るなよ。
「3号、4号、5号」
「ワン、ワン、ワン」
 ああ、面倒くせ。
「98号、99号、100号」
「ワン、ワン、ワン」
 ふうー、やっと終わりか。
「101号」
「…………」
 返事しろって、こっちは善意でこんな役目を引き受けているんだから。
「101号」
「…………」
 いないのか? 確か101匹だったよな。俺も数えたことないけど、おふくろは確かにそう言っていた。あっ、もしかして、まだあのトラックの荷台に。
「良く来たねー」
 そのとき背後でドアが開く音がして、急に俺は抱き上げられた。
「きみ、ベイブっていうんだ。よろしくね」
 いつのまにか俺の首にぶら下がっていた名札。それを見ながら若い女は目を細めた。
「ちっちゃいねー。まだ生まれたばっかし?」
 よ、よせ、顔を寄せるな。俺は子犬じゃない。人間に育てられた、れっきとした人間だ。
「ウゥゥゥ……、ワン」



─── 了 ───


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